心配ご無用!事業の民事信託スッキリ活用術

 


1.会社使用不動産民事信託の活用(家族信託・親愛信託)


【案件】

 社長が個人名義の不動産を、会社が使っているケースは、たくさんあります。

 A株式会社の社長Xは、個人名義の不動産をA社に無償で使用させています。
いっぽう社長は長男Yを次の後継者に考えていますが、ほかにも3人の子どもがいます。

A社の株式をYに相続するときには、この不動産をほかの3人に分け与えないと、公平じゃないと漠然と考えています。
同時に、会社で使っている不動産を相続させてしまうと、A社が使用できなくなるのではないかと、とても心配です。


【事前対策】

①X個人の名義不動産を、委託者兼受益者X、受託者A、二次受益者をYを含む相続人全員の等分とする。以上の内容で受益者連続信託契約を締結する。その後、A社名義に信託登記する。

②XとA社はこの不動産を、Xの死亡を始期とする「始期付賃貸借契約」を結ぶ。

③Xの死亡後、A社は受益者となるXの相続人全員に、賃料を払う。


【効果状況】

①不動産を使用しているA社が受託者となったので、不動産管理ができるようになった。

②X死亡後はその相続人全員に、賃貸借契約によって賃料を支払う。賃料支払義務は発生するが、使用できなくなるリスクはなくなる。

③相続人たちも安定した賃料収入を得ることになる。

 

 

 

 

2.自己信託を活用した生前贈与・事業承継


【案件】

 中小企業の社長の大きな悩みとして、自社株式をどうやって後継者や子どもなどに承継させるか、という事業承継の問題があります。

 日野八王子建設(株)(H社)の社長であり、100%持ち株株主であるOさん(63歳)は、そろそろ会社経営を後継者である長男のFさん(36歳)に、譲ろうと考えています。

 しかし、Oさんから見てFさんはまだまだ経験が浅く、すぐに会社経営のすべてを任せるのは不安でいっぱいです。
しばらくの間、Fさんの成長を見ながら株式の移転を行った方が良いと思っています。

また、Fさんが後継者としてふさわしくない場合には、身内ではなく会社の内部や外部の第3者を指名することもあっていいと、最近考え始めています。


【対応検討】

 単純贈与でも一応事業承継対策となりますが、Oさんの希望である「少しの間Fの成長を確かめてから」という意向がかないません。単純贈与では、Fさんに株式全部が移転してしまうので、「Fが後継者としてふさわしくない場合には、第3者を指名する」ことができなくなりますね。

 そこで、Oさんを委託者、Fさんを受託者とする信託を組成して、段階的にFさんに贈与する方法があります。しかし、それでは議決権がFさんに移ってしまって、Oさんにとって心理的負担はどうしてもあり続けます。

 また、受益権の贈与を段階的に行うときにも、Oさん自身の行為能力がなくなってしまう可能性もあります。


【具体的対策】

・Oさんは自己信託宣言を行い、自分を受託者として、受益権については100分の99を自己、100分の1をFさんとする。

・OさんはFさんに、必要に応じて受益権の一部贈与を継続的に実行

・信頼している親族や会社関係者、会社を受益者変更権者としておく。

・Oさんが行為能力を失った後は、受益者変更権を実行して、受益権の一部をFさんに贈与できるようにする。

・信用信頼できる者を受益者代理人に指定しておく。

・Oさんが行為能力を失った後、受託者をFさんに交代できるようにする。


【結果効果】

・Oさんの意向通り段階的にFさんに受益権を移す。

・会社経営に対する議決権行使も、いままでどおりOさんが行う。

・Oさんが行為能力を失った後は、受益者代理人によって受託者をFさんに交代する。
信託株式の議決権行使を継続できる。

・受益者変更賢者によって受益権の一部を贈与、必要によって信託行為の内容変更も可能。

・Oさん死亡のときに、受益者代理人や受益者変更権者が、後継者としてのFさんの資質を判断する。
Fさんが後継者としてふさわしければ、受益権の全部をFさんに移行して、他の相続人の関与が及ばない事業承継が成立する。

 

 

参考:「種類株式&民事信託を活用した戦略的事業承継の実践と手法」  河合保弘著