本当は認知症対策だけじゃない民事信託(親愛信託)
1.認知症対策としての民事信託(家族信託)
タイトルと違うことを書くようですが、 確かに効果絶大なので、認知症対策になる民事信託を解説していきます。
民事信託(親愛信託)の特性を活用すると、かなり効果的な認知症対策が可能となります。
一般的には、人が認知症になると、家族や市町村が家庭裁判所に申し立てて、法定後見人を選任してもらいます。
その法定後見人が、本人ができなくなった財産管理や、いろいろな契約などをおこなってくれます。
現実の実務では、後見人が選任されるまで、2ヶ月から3ヶ月の期間がかかります。
そうなると、例えば本人が、収益不動産のオーナーや、会社経営をしている社長である場合、その間に発生したさまざまな問題に対して、家族や会社役員であっても誰も対応できません。
たとえ後見人が決まった後でも、後見人の役割は本人のために、その財産を保全することだけです。
認知症になってしまった本人に代わって後見人が、収益不動産を有効活用したり、会社を上手に経営していくことはありません。
それなら、本人の判断能力がしっかりしているうちに、任意後見契約をして将来の後見人候補者を指定しておけばどうでしょう。
この制度も実際は、本人が認知症になると法定後見と同じように、家庭裁判者や後見監督人にきびしく監督されてしまいます。
ですから、本人の意思が完全には尊重されることにはなりません。
ではどうしたらいいかというと、本人の判断能力が確かなうちに、特に収益不動産や自社株式など重要な財産は民事信託契約をしておきます。
重要な財産である信託財産を、信託契約した受託者が管理・運用することによって、本人が認知症になったとしても財産管理には何も影響しません。
また、本人に後見人がついたとしても、民事信託契約した信託財産については、本人の意思が反映する契約通りに管理・運営されていきます。
こういった理由で、民事信託(家族信託)を活用すると、効果絶大な認知症対策の仕組みを作り出すことができます。
2.信託財産とは
前述した民事信託した財産を信託財産と言います。
基本的にプラスの財産であれば、すべての財産権は信託財産にすることができます。
個人の不動産、金銭、有価証券、企業オーナーが所有する自社株式、著作権や商標権・特許などの知的財産権も信託財産になります。
ほかにもペットや貴金属などの動産、貸付金などの債券も、信託財産として受託者に名義変更できます。
さらに新信託法では、「事業」という目に見えない財産も、関連債務の同時引受を要件として、信託財産として認められることになりました。
このように民事信託(親愛信託)は、人や法人が所有しているいろいろな財産を、別の信託財産として、もう一つの財布を持てるようになりました。
このことは、従来から信託銀行が発展させてきた商事信託とは、根本的にまったく異なった民事信託が成立されたことを意味しています。
これほど活用の範囲を広げた民事信託(家族信託)は、もちろん認知症対策として非常に有効な対策です。
でも実は、活認知症対策をこえてその何倍もさまざまな場面で、当事者の想像以上にその意思を実現できるものとなっているのです。
びっくりするほどの事例を見ていく前に、もったいぶっているわけではありませんが、より理解ができるので、民事信託(親愛信託)の新たな登場人物について確認しておきましょう。
3.民事信託の新たな登場人物を押さえておきましょう。
2009年改正した信託法では、民事信託で活躍できる新たな登場人物を設定しました。
「信託監督人」「受益者代理人」「受益者指定権者」で、信託契約などで定めておくと、3種類それぞれの重要な役割をすることができるようになりました。
この新たな登場人物は、民事信託にとって大きな伸展性を持っています。それぞれの役割について、わかり訳説明していきますね。
①信託監督人
第1番目の登場人物である信託監督人は、信託法第132条以下で規定されていて、受益者の利益を守るために受託者をを監督する権限をも持って指定される人です。
たとえば、受託者が多額の信託財産を一人で管理している状態のときがあったとします。信託監督人が受託者に定期的な報告を求めることで、受託者の役割実行について、委託者の意向通り務めを果たしているかどうか、監督することができます。
②受益者代理人
2番目に信託法第138条以下で規定された受益者代理人は、受益者の権限を代理できる人に指定されていて、大きな意味合いを持つことができるようになりました。
たとえば、受益者が認知症などになってしまって判断能力を失い、自ら権限を行使できなくなってしまったとします。
株式会社などで、信託された金銭や契約の変更ができなくなって凍結されてしまう、デットロック状態になることを予防できます。
③受益者指定権者
最後に受益者指定権者は信託法第89条に規定されていて、次の受益者が決まらないうちに、現在の受益者が死亡してしまったときなどに、次の受益者を決定する権限を持つ人のことです。
この受益者指定権者は、相続人ではない第三者が相続財産の帰属権利者を指定できることになります。
これは信託法改正前の法律の常識にはなかった、実に画期的な方法ができるようになったことを意味しています。
この3つの登場人物が設定された制度は、事業承継などで活用できるすばらしい進歩をもたらすものになるのではないかと考えられます。
参考:「種類株式&民事信託を活用した戦略的事業承継の実践と手法」 河合保弘著