達人が教える民事信託(親愛信託)とは何?

 

民事信託(親愛信託、家族信託)とは

 

 

 民事信託(親愛信託)と聞いてもまだ理解している方は、少ないのではないのかと思います。なぜかというと、実は法律家と言われている士業(司法書士、行政書士、弁護士など)でもちゃんと理解している方が少ないからです。または、一部分だけを自分の分野に都合良く取り入れているのが実情です。

 しかし、最近では民事信託(親愛信託・家族信託)の名称とともに、非常にクローズアップされてきています。特にここ2~3年は税理士や不動産のハウスメーカーなどが、認知症対策とあいまって、資産家や会社の経営者対象のセミナーが多く開催されていますね。

 いっぽう一般の方が「信託」という言葉から連想するのは、ほぼ信託銀行という資産家や企業が大きな財産を、投資運用するときに使うイメージだと思います。

 民事信託(親愛信託)においては信託銀行は登場しませんし、財産の多い少ないにかかわらず投資運用することも想定されていません。

 それでは民事信託(親愛信託)で誰が何をするのかというと、金銭や不動産など財産を持っている人が、信頼できる家族や友人、一般社団法人に「信託」(信じて託す)することでいろいろな対策ができます。

 「民事信託(親愛信託)で最も柔軟で、現時点では究極の財産承継・事業承継ができます!」

 

 この民事信託(親愛信託)を活用すれば、従来の民法では不可能だったことがいくつも可能となり、いままでかなわなかった願いや想いが、相当の確立で実現できる「究極の財産管理ツール」となることでしょう。

 では、少しずつ解説していきますね。

 


1,民事信託のはじまりとその特徴

 

 

 まずはじめに、民事信託のはじまりと特徴について説明しておきます。
民事信託の始まりには諸説ありますが、一般的には中世ヨーロッパの十字軍にあるといわれています。

十字軍として遠征する人が、戦地で重傷を負ったり、死亡したとしても残された家族が生活に困らないように、ある仕組みを考えました。

 それは自らを委託者として、信頼できる友人を受託者とし契約を行い、自分が持っている財産や農地を友人に託しその友人の名義に変えました。これは全く新しい契約形態です。

受託者となった友人は、友人の財産を自分の財産と同じように大切に管理し、そこから得た収益を受益権として 、再び受益者である友人の家族に手渡すというものです。


この契約の大きな特徴は、
①通常の契約と異なり、契約当事者である委託者の死亡が契約自体には全く影響しないこと。
②受託者に名義が移っていること。
③名義と権利が分かれているので、委託者や受益者の意思能力や判断能力に関係なく、継続的・安定的に財産管理ができることです。

 この契約では、委託者が死亡した場合にはすべての権利が受益者に移り、委託者が元気に帰ってきた場合には元に戻って信託が終了します。
 また、委託者が重傷や認知症になったときでも、受託者が財産管理しているので問題が起こりません。いわば、どのような状況になっても柔軟に対応できる仕組みとなっています。

 

 

 イメージすると、財産の所有者が別のさいふをつくって自分の一部の財産を入れ、そのさいふに一定の目的や役割をもたせておきます。そしてそのさいふを受託者が預かって財産管理という目的を実行して、利益が出れば受益者に渡します。という感じですね。

 


2.民事信託と商事信託の違い

 

 

(1)商事信託


 はじめに、十字軍の民事信託と比較してみると、最初に、委託者と受益者が同じ人になっています。
 
 日本の税制上、最初の財産所有者である委託者が、自分とは違う人を受益者とした場合、信託設定と同時に財産権が移ったとみなされて贈与税の対象となります。ですから、日本では民事信託を含めてこの形になっているのです。

 次に、
・委託者で受益者という人が複数いる。
・受託者が信託財産を投資運用して手数料を受領している。
・金融庁が受託者を監督していること。
これらが十字軍の民事信託にはない特徴となっています。

 要約すると、信託銀行は不特定多数の人からお金を集めて、それを元手に投資運用して手数料を得るという金融活動をしています。ですから、金融庁が信託銀行を不正がないようにチェックしているのです。


(2)民事信託


 民事信託は商事信託と違って、
・委託者は一人で。
・受託者は財産の投資運用はしないし、手数料を取らない。
・したがって、金融庁の監督もない。

 言いかえと、所有者が財産の一部を分け、その財産専用のさいふをつくり、それを受託者が管理して受益者に渡してくれる方法なのです。
ただひとつ十字軍と現在の民事信託の違いは、日本の税制の関係で、信託設計のはじめは委託者と受益者が同じ人になることぐらいでしょう。


 特筆すると、親愛信託には自己信託というものがあります。
自分が自分の財産の受託者になるというものですね。適当な受託者が見つからないときには、便利な方法です。

 このように民事信託の主役は委託者の希望や想いです。
受託者はその意向が実現できるように、誠心誠意実行していく役割になります。
受益者は委託者の意向を受け取る存在です。

 


出典:「民事信託を活用した戦略的事業承継の実践と手法」河合保弘著